「国籍」のみをもって排除することは いかなる理由があろうとも「差別」である - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

記事詳細

「国籍」のみをもって排除することは いかなる理由があろうとも「差別」である

【投稿日】2022年5月24日(火)

 こんな当たり前のことを今になって改めて主張しなければならないほど、在日コリアンをはじめとする外国籍者の人権状況はかぎりなく悪化し、後退している。

 かつて在日コリアンは「国籍」の違いを持って、当たり前のように差別されてきた。しかし、1970年代の日立就職差別裁判の勝訴や阪神6市1町の公務員国籍条項撤廃を皮切りに、あらゆる生活空間での「国籍条項」との闘いが各地で拡がり、事象事の闘いが行われ、その撤廃を勝ち取ってきた。そして日本の国際人権諸条約批准が後押しとなって、国家公務員への就任や任用制限、参政権など、一部で残存してはいるものの、社会通念上「国籍」のみをもって外国籍者を排除することは「差別」であるとの認識が定着してきた。実際、自治体や企業が独自に作成する「人権指針」などには「国籍による差別」は重要な人権課題の一つとして位置づけられるようになった。しかし、昨今、そのような社会通念を大きく揺さぶる事件が多発している。

 LINE証券は2019年8月の営業開始から2021年11月までの約2年間、「国籍」のみをもって口座開設から外国籍者を排除した。KMJが問題視し、抗議したことによって改定に至ったが、それがなければ、外国籍者を排除し続けていたであろうことは、想像に難くない。LINE証券には、その設立にかかわり、役員や社員を出向させ、そのセキュリティーやコンプライアンス面で全面的にサポートしている野村ホールディングスが関与しているにもかかわらずだ。野村ホールディングスは、長年先進的に人権問題に取り組み、「行動規範2020」という崇高な人権指針を持ち、職員の人権研修にも力を入れている。その行動規範には「国籍」を理由とする「一切の差別を行わず、均等に機会を提供」すると書かれている。だが実際はどうだったのか。LINE証券に出向している役員や社員はおそらくこれが差別だとは気づかなかったようだ。野村ホールディングス内でLINE証券をサポートする職員もおそらく同様だ。ゆえに差別が温存され続けたのである。真相を究明すべく実際にどうだったのかをいくら聞いても野村ホールディングスは答えなかった。おそらく答えられないのであろう。なぜなら野村ホールディングスの職員の誰も問題だと気づかなかったからだ。ゆえに、KMJが抗議しなければ、放置され続けたであろうということだ。

 SBIネオモバイル証券の問題も同様である。資本・業務提携している三井住友フィナンシャルグループにも、「人権尊重に係わる声明」という崇高な人権指針があるが、結局、KMJが抗議しなければ、そのまま放置されていたであろう。三井住友フィナンシャルグループの職員は誰も何も感じなかったのだろうか。聞いても答えてくれないのである。

 そして、何よりも問題は、LINE証券も野村ホールディングスもSBIネオモバイル証券も、三井住友フィナンシャルグループも、「国籍」のみをもって在日コリアンをはじめとする外国籍者を口座開設から排除した、この事実に対して、「差別」であったと、いまだに明言しないことである。検証もしないし、反省も謝罪もしないことである。

 そのことから私は、日本社会には、何かしら理由があれば「国籍」のみをもって在日コリアンをはじめとする外国籍者を排除しても問題ないという認識を、依然として根底に抱き続けているということに改めて気づいたのである。なるほど、だから「吉野屋」は、外国籍者とおぼしき人物を排除した。「在留資格の確認が困難」なので排除しても問題ないと認識していたわけである。岐阜県可児市にある「愛岐カントリークラブ」は、日本国籍を取得したコリアンの入会を拒否した。クラブでは日本国籍であろうが、元外国籍者は、外国籍者の枠内での入会しか認めていなく、今、その枠がないので入会を断っても問題ないと認識しているわけである。

 このように、根強く日本社会に存在する「国籍差別意識」が、何らかの理由があれば安易に「国籍」のみをもって外国籍者および元外国籍者を排除しても、それが人権問題だと認識されない状況を再生産しつつある。だからこそ、これらの問題を放置してはいけない。そして、いかなる理由があろうとも「国籍」のみをもって外国籍者を排除することは「差別」である、これが当たり前になるよう言い続けなければならない。(高敬一)