ヘイトコラムにたいして新潮社に要望書(11/4) - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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ヘイトコラムにたいして新潮社に要望書(11/4)

【投稿日】2025年12月15日(月)

 新潮社が発行する『週刊新潮』(7月31日号)に掲載された高山正之氏のコラム「変見自在」が外国にルーツを持つ人々への差別にあたるとして、コラムで名指しされたコリアにルーツを持つ作家の深沢潮さんが、同社にコラムに対する見解や謝罪を求めた問題が泥沼化している。当該コラムはそのタイトルを「創氏改名2・0」とし、外国人が日本国籍を取得する問題について持論を展開。深沢さんらの名前を挙げ、「日本も嫌い、日本人も嫌いは勝手だが、ならばせめて日本名を使うな」などと書いた。また、「外人」や「支那」という民族差別語もそのまま掲載されていた。
 深沢さんらの要望にたいして、新潮社からは8月12日付で批判を受けた事態について反省すると回答したが、深沢さん側は、同社がコラムの内容を「『差別的かつ人権侵害にあたる』との認識を持っていないとして、再度要望。新潮社は『差別的かつ人権侵害にあたる』というご指摘、ご批判については、真摯に受け止めており、そのような文章を掲載した責任を痛感しております」と回答した。しかし、同社としてコラムの内容のどのような点に問題があったのかなどの見解を示さなかったことから、深沢さんらは「最後まで向き合おうとしなかった」と批判。そのような姿勢に対して失望した深沢さんが、出版に関わる新潮社との契約を解消した。現在、毎週火曜日に新潮社本社前で、「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」がスタンディングデモを行っている。
 深沢さんは代理人を通じて「私の気持ちが傷ついたのは、コラムが差別的で人権侵害にあたるからです。新潮社として差別や人権侵害への認識に向き合わないことに、絶望しました」とのコメントを寄せたそうだ。

一方、高山氏は『週刊新潮』編集部との協議の結果、同誌8月28日号(20日発売)をもってコラムを終了させた。高山氏は『月刊WiLL』10月号(ワック発行)で反論を掲載。「女流作家に屈伏した週刊新潮」とのタイトルの下、主に『朝日新聞』への批判を展開したうえで、新潮社側がコラムを「最低でも休載しろと言ってきた」が「休載でなく連載をやめると言った。新潮側はとてもうれしそうだった」と記したという。
 新潮社の対応が、2人の言論の場を奪うことになってしまった。しかも当該コラムの内容が何ら検証もされずにである。

 KMJはこの事態を重くみて、新潮社にたいして、11月4日付けで要望書を提出した。
 要望書では、KMJが「出版各社とは1980年代からさまざまな民族差別語・民族差別表現にたいして抗議、話し合いを重ね」「1990年代後半からは、民族差別語・民族差別表現について共同で研究・研鑽を重ね、一定の基準も創り上げ」てきたこと。「現在は信頼関係の下、当センターは研修の場を提供し、出版各社はそこで継続して学ぶ、また問題が発生すればともに解決していくという関係を築いてい」ると前置きし、当センターが本件が表沙汰になってからこれまで静観してきたのは、「貴社も含めた出版各社には」「これまでの実績があり、経験豊富な担当者もいること」「長年築き上げた当センターとの信頼関係」の下で、「必ずや当事者である深沢潮さんらの気持ちを慮り、当事者の意向に沿った解決をしていただけるものと信じていたから」と、これまで行動を起こさなかったのは、新潮社の自浄作用に期待していたからだとした。ところが、事態が泥沼化してしまったので、今回、要望書を提出するに至ったとした。今回の新潮社の対応は、「深沢さんの人間としての尊厳と、作家としての命を奪ってしまった」と指摘。高山正之氏からも言論の場を奪うことになったとした。

 一方で、当該コラムは「高山氏による人種差別意識にもとづいて書かれた醜悪なものであり、差別を煽動する悪質な『ヘイト』コラム」であること。その煽動に新潮社が加担したこと。また「外人」や「支那」という民族差別語がそのまま掲載されていることを指摘し「なぜこのような『ヘイト』コラムを掲載したの」かと問いかけた。
 そして新潮社の一連の対応は、「先人たちが長年積み重ねてきた民族差別語・民族差別表現にたいする研究・研鑽にたいして泥を塗る行為であ」ると非難し、それでも「貴社に出版社としての尊厳と自浄作用が残っているものと信じ」以下について要望した。

1.高山氏のコラムの内容について貴社の見解を明らかにしてください。
  (当コラムの内容が、深沢さんはじめ在日コリアン・外国人にたいする人権侵害にあたるのかどうか。)
2.高山氏のコラムに記載されていた民族差別語にたいする貴社の見解を明らかにしてください。
3.高山氏のコラムが掲載された経緯を明らかにしてください。
  (編集者は問題と思わなかったのかどうか、編集部内でどのような議論が行われたのか。)
4.貴社8月6日付け「お知らせ」で示された「人権デューデリジェンス」を具体的にどのように強化したのか、そしてこの間、どのような取り組みをしてきたのかを明ら  
  かにして下さい。
5.上記要望にたいする貴社の見解について、当センターとの協議の下、『週刊新潮』誌面およびホームページに掲載してください。
 以上について、12月1日までに文書での回答を求めた。
 高山氏のヘイトコラムは昨今、ますます過激化する差別・排外主義を煽るものであり、新潮社の行為はこれに加担するものである。新潮社には、このような状況にあるからこそ、被差別当事者の思いを受けとめていただきたい。そのためには、ヘイトコラムと向き合い、それをNOとする見解を示し、それが出されてしまった経緯を検証し、真摯に学び、二度と同じ過ちをくり返さないことを行動で示していただきたい。新潮社の出版社としての尊厳に期待する。