大阪市在住 在日コリアンの市民税をゼロに! - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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大阪市在住 在日コリアンの市民税をゼロに!

【投稿日】2015年7月21日(火)

 KMJ通信82(前)号で、高敬一事務局長が「コリアンを無視した住民投票は無効である」という在日コリアンなら当然主張すべきテーマの主張をした。これについて、日本人として何か付け加えるべきことはないか、と考えてみた。

 日露戦争の後、日本国内の国鉄山陽線と朝鮮の京釜鉄道をむすぶために、下関~釜山を結ぶ関釜連絡船が運航された。これは、日本が朝鮮半島から、旧満州(中国東北部)に進出するためのルートとして考えられたが、結果として朝鮮人を日本内地に運ぶルートともなった。

 朝鮮における日本の土地収奪政策による朝鮮農民の零落と、日本資本の労働力需要の増大の結果、多くの朝鮮人が渡日するようになった。1919年の三・一独立運動のあと、4月には朝鮮人旅行取締令により渡日制限がされたが、実際の渡日は増加し、1920年(大正9年)には3万人におよんだ。1937年の日中戦争、38年の国家総動員法、翌年の国民徴用令(朝鮮では募集形式・官斡旋形式・徴用形式の3段階)、によって多くの朝鮮人が45年解放以前に渡日した。当時の在日の職業は、道路・鉄道・河川・発電所工事などの土木工事。工場では未熟練見習い工・雑役で日本人の半額より低い民族差別賃金で働かされ、住居は工場地帯の貧民長屋だった。

 関東大震災時には多数の朝鮮人が殺害等の弾圧をうけ、皇民化政策で民族性は抹殺された。君が代丸就航で大阪に多くの労働者が流れ込み、生野区がその集住地域となった。その人たちの子や孫、それが在日2世・3世である。1985年11月14日NHK大阪が放映した「漢字のきた道 王仁の聖地百済」という番組は、在日の若者たちが王仁の生地を訪ねる旅の物語であるが、在日の若者と韓国の若者が話し合うシーンのなかで韓国の若者が、韓国語が話せない在日の若者に「あなたたちのアボジはなぜ言葉(韓国語)を教えなかったのか」となじるシーンがあった。在日の若者は応えられなかったが、ここで筆者が答えておこう。

 戦前・戦中に来日した朝鮮人は、日本人の半分に満たない賃金でこき使われた。それは民族差別である。しかし、かれらは庶民だった。一方、留学生は日本の植民地支配に抵抗し、三・一独立運動を起こした。私は戦後教育の中で三・一独立運動のことは教えられなかった。ただ、万歳事件として教育された。「万歳」を叫んで朝鮮人が行列した、ということで教えられたのだ。決して「独立万歳」と叫んだと教えられたわけではない。好意的に考えれば、戦前・戦中に教育をうけた教師自身が正しく教えられてこなかったから知らなかった、ということかもしれない。だから筆者も、KMJにかかわるまでは「万歳事件」としか認識していなかったのである。ただの万歳であって、けっして「独立万歳」ではなかった。

 戦前・戦中に渡日した1世は、日本人並でないという理由で、賃金が削られるということを身をもって感じた。そこで1世は、子や孫に朝鮮語を教えない、つまり日本人のふりをすることで差別を回避させようと考えたのである。しかしそのことは、考えるまでもなく日本社会の韓国・朝鮮人差別の結果である。日本人のふりをしなければ生活しにくい環境は、日本人の在日韓国・朝鮮人差別の中から生まれてきたのである。だから1世は、民族性の第一である言語・母国語を教えないことで2世3世を日本人に近づけようとしたのである。そのようにして、訪韓しても母国語を話せない在日コリアンが成立した。いま、在日の家庭で韓国語の会話が成立しないところが増えている。しかし、これからは再び母国語を習得しようとする動きが主流となるだろう。韓国民団に属している家庭で、こどもを韓国学園でなく朝鮮総連系の朝鮮学校に通学させるところがでてきたと聞く。ひとえに朝鮮・韓国語学習が目的なのだ。これからの日本社会で、韓国・朝鮮語を話す人を差別することは許されない。国連の人権委員会も日本における「韓国・朝鮮人差別」を懸念し、勧告もしている。「世界的人権感覚の監視のなかに日本社会が置かれている」と言ってもいいだろう。

 さて、在日韓国・朝鮮人に日本での選挙権はない。日本国籍がないからである。日本で生まれ、日本語が母語(生まれて最初に覚える言語、世界的にみて母語は自国語であるが在日の場合は違う)である在日コリアンが増加した。その世代の若者が訪韓した結果が王仁の生まれ故郷での、「あなたたちのアボジはなぜ言葉(韓国語)を教えなかったのか」の質問につながるのである。国によっては、アメリカのように、「生地主義」で国籍を付与する国がある。だからアメリカ国籍ほしさに渡米して出産する妊婦もあらわれるのである。しかもそうすることは、合法なのである。日本は親の国籍を踏襲する形で、日本で生まれても日本国籍者の子でないと日本国籍を付与しない。日本が生地主義を排しているのは、在日コリアンが存在しているから、と言えないこともない。親の国籍が日本でないものには日本国籍を与えない形をとっている。韓国・朝鮮人に日本国籍を取得させたくない考えが、その根底に存在しないことを祈りたい。

 高敬一事務局長が、在日コリアンを無視した住民投票は無効である、の一文を前号に記せられた。それは在日コリアンを「住民」とみなさない大阪市に対する怒りである。私はいいたい。大阪市は在日コリアンに住民投票の投票権を与えない。住民投票ならば住民に投票を求めるべきである。住民投票と言いながら、選挙人名簿で投票権を与え、住民である在日コリアンを投票から排除したことは、大阪市による在日コリアンへの差別でしかない。住民投票でありながら住民を選挙権者にすりかえて、在日コリアンを排除するのであれば、在日コリアンの住民税を還付すべきである。市民税は住民から徴収するべきものであると考える。したがって、大阪市は大阪市在住の在日コリアンを住民として認めていないことになるから、市民税をゼロにすべきである。市民税を徴収するなら住民としての権利を認めてからにしていただきたい。(I)