新年のごあいさつ 不安定社会の中の「ヘイト」現象 - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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新年のごあいさつ 不安定社会の中の「ヘイト」現象

【投稿日】2017年1月13日(金)

 2016年は誰の目にもあきらかなように、きわめて不安定、そして先のみえない世界の動きのただ中で去り、新年をむかえた。そのおおきな変動の目玉は、ひとつには移民問題であり、もうひとつはTPP問題である。前者はヨーロッパやアメリカ合衆国が主たる現象だが、その結果は「おしかけお断り」という排他的ナショナリズムと、それを最大限に利用する右派勢力の肥大化をもたらしつつある。しかし「移民問題」の根源はアメリカがはじめた中東全域にわたる軍事的侵略の結果であり、それに追従しているEC、そして自己の勢力拡大をたくらむロシアの行動の結果である。だれもすき好んで長年すみなれた土地をはなれて文化、環境のことなる異境で暮らしたい、とは思わないのが当然であろう。この問題の唯一の解決策はいますぐに「先進諸国」が率先撤兵することである。また日本も「国際貢献」などの美名におどらせられないで、自衛隊の即時引き上げをすることだ。それをしないと海外派兵は恒常化させられるだけでなく、国内での好戦的ナショナリズムの蔓延と一層の排外主義の跋扈をゆるすことになるだろう。

 TPP問題は現代資本主義の根本的な行き詰まりから生じている。リーマンショック以降、声高にさけばれている「グローバリズム」とは、もはや個々の民族国家の枠組や政策では制御できない資本の暴力の発露であり、国境を軽々とこえる国際的総資本の「わがまま」のあらわれである。日本の原子力にかかわる大資本も、最大限にこの動きに乗ろうとしている。このままいけば、遠からず核輸出国になるだろう。原発再稼働はその芽である。

 もうひとつの資本の標語は「新自由主義」である。これは露骨な、無道な、際限のない自由競争万能の世の中にすることで、どの産業、どの地域からも最大限の利潤を上げようとするものである。そのためには、一切の社会政策を切り捨てる。社会保険や年金の切り下げをはじめとする「弱者いじめ」がそのあらわれである。トランプはこれらの諸政策を実行にうつすために、他国資本の身勝手を許さない口実としてTPPを当面は批准しない、と言っているにすぎない。2017年はこのような嵐の中の船出であることを覚悟しておかねばならない。

 日本国内では、5月に「ヘイトスピーチ解消法」が成立した。また年末には「部落差別解消推進法」が成立した。いずれも「理念法」であり、法の内容も不十分なものである。しかし、当事者やかかる差別を放置したままにしておくことは許されない、とする立場からは、この法を「木刀」とはいえ、それなりの強じん性をもった武器にきたえなおして活用すべきであろう。今、全国各地で地方自治体やその議会に対して、各地での「条例」制定をもとめる動きが活発になりつつある。この背景には国際世論もさることながら、今まで闘われてきた京都朝鮮学校事件、徳島日教組事件、そして大阪地裁での李信恵さん裁判の勝利などの動きがあったことを、忘れてはならない。たとえ全面勝訴ではないにしても、ことの不当性を権力側が一部でも認めたことは、この日本社会が「差別」を野放しにしてよい社会ではない、ということを権力に自覚させたことの意義は小さくはない。

 希望をつくり出すのも、また私達自身なのだ。この一年、新たな試練にも耐えてともに生き抜こう。(仲尾宏理事長)