「美しい国日本」(安倍)、醜い首相アベ - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

記事詳細

「美しい国日本」(安倍)、醜い首相アベ

【投稿日】2017年7月6日(木)

不正-森友加計への特権的利益供与

 国家戦略特区の美名のもとに、森友学園小学校建設と加計学園岡山理科大学獣医学科新設に、いかに現政権が特権的な利益供与(源泉は税金)をはかったかが自明のものになっているにもかかわらず、首相と政府は白を切るどころか、「共謀罪」をはじめとする諸法案の審議が停滞し混乱を招いたのは、野党らの抵抗勢力の(両学園問題追及)せいであると、首相は「反省」の弁で述べるありさまだ。その混沌とした国会の状況下で、無能な法務大臣を矢面に立てて、筋違いの答弁を繰り返えしさせて、時間をかせぎ、参議院ではついに禁じ手の「中間報告」の手法を用いて、「共謀罪」(テロ等準備罪・改正組織犯罪処罰法)を新設させた。彼らの失策と汚職の森友学園問題と加計学園問題の、不正不公平が追及されると、それを陽動作戦(敵の注意を別のものに向けさせる)のように逆用して、共謀罪法案の徹底した審議を回避させた。首相の肩すかし答弁の合間、目を閉じてニタニタと笑う麻生副首相。言いたいことは言わせておけ、時間がくれば多数決で決まると、野党議員を鼻であしらう彼は、明治の「元勲」大久保利通の末裔。片や安倍は、1960年6月、30万人学生市民の国会包囲デモ、560万人の労働者のストライキ、これらを無視し、我は「声なき声」に従うと、デモ鎮圧に自衛隊出動まで匂わせて新安保条約を締結させた岸信介の末裔。内閣支持率が急落して、首相は少々気落ちした風には見えたが、どこか泰然としている。それは何故か。彼の足下に、すでに三つの武器が整ったからである。

三つの武器を用いて憲法「改悪」

 ①に特定秘密保護法(2013年12月6日)、②に安保法制(2015年9月18日)、③に「共謀罪」(2017年6月17日)である。まるでこの悪法三脚の上に、安倍内閣という映写機が座り、仰々しいスクリーンに「改悪」(故田畑忍憲法学者)された憲法施行2020年の幻想を映し出そうとしている。その①の秘密保護法は、すでに現実化している。森友、加計問題につき情報公開請求で出されてくる行政の資料紙面は海苔巻状態か、700枚以上が海苔そのもののように真っ黒(大阪航空局が提示した国有地売却8億円値引きの根拠資料)。役所にとって不都合なものは全て秘密に。その②は状況判断をして、少々抑制的である。戦闘激化の南スーダンからの撤退は、憲法第9条の「改悪」、もしくは「加悪」前に、戦死者が出てはまずいと安倍が判断したからか。その③は共謀罪施行以前からすでに始まっている。大分県警が、労組連合大分の事務所の庭樹木に備え付け、出入りする人間のカメラ撮影発覚(2016年8月)。JR大阪駅前で東日本大震災で生じたがれき搬入に反対する集会に講師としてスピーチした大学准教授が集会後駅構内を参加者と移動したことを「制止する駅員を押しのけてデモ行進し業務を妨害した」として「逮捕」(2012年12月)され、20日間の「拘留」「不起訴」という処分をされた。これからもっと露骨にテロ準備・共謀の容疑と称して際限なく法の拡大解釈と適用で、官憲が踏み込む事態が起きると予測される。

共謀罪のスケープゴート 

 本格的な「共謀罪」捜索は、どこから始まるのか。あくまで予測だが、まずは暴力団、麻薬犯罪関係から。次に拉致・要人殺害・核実験・ミサイル連発等で十分すぎるほど反発が市民間に浸透している北朝鮮、それとのつながりがある在日朝鮮総連関係団体。昨今警察官殺害容疑で46年間逃亡の後、逮捕された活動家の中核派関係団体。これらを見せしめ的に共謀罪のスケープゴートにし、共謀罪の効果を誇大に宣伝し、市民のコンセンサスを得ようとするのではないか。このようにして共謀罪が大手をふって横行し始めると、大なり小なり、集会とか組織とかの名称がつくものへの参加は、自己規制的に後退していく。阪神大震災以降、次々に誕生し、社会的貢献をしてきた、NPO組織も、減退していく。社会的自発性こそが、社会を根本から変えていくのに、その芽を摘み取り、あらゆる分野で人間の活動が委縮していく(保守派漫画家小林よしのり)のではないだろうか。その上に憲法改悪という大きな傘がのしかかってくる。

9条に「加憲」し緊急事態条項を新設する

 憲法改悪として、安倍が第1にあげているのは憲法第9条である。それも、第1項戦争放棄、第2項の陸海空の戦力不保持、交戦権認めずを削除し国防軍を設置する、という自民党が2012年に用意した「改正草案」ではない。改悪反対の反発を避けるため、9条の第1項、第2項はそのままにし、そこに自衛隊の存在を明記する文言を挿入するというもの。それによって自衛隊の存在とその行動を逐一国会で説明し了承を得る必要がなくなり(長谷部恭男早大教授)、まさに安保法制に基づき地球の裏側まで自衛隊を派遣できるようになる。その他、高等教育の無償とか飴をなめさせるような改定案を挙げているが、一番恐ろしいのが緊急事態条項案である。外部からの武力攻撃、内乱等の社会的混乱、地震等の大規模自然災害において、内閣総理大臣は緊急事態宣言を発し、法律と同一の権限をもつ政令を発し、財政上必要な支出処分を為し、地方自治体に対して必要な指示ができる。憲法改悪論者は、現日本国憲法にこの緊急事態条項が無いと嘆く。日本国憲法がそのモデルと仰いだドイツワイマール憲法には、「国家緊急権」があった。ナチスヒットラーは、これに目をつけ、国家権力を掌握したあと、この緊急権をフルに活用し、国会の機能を停止させ、行政の長である内閣が国会を兼ね、行政と立法の一体化をはかった。司法は、その政令に従い判決を下す。三権分立は地に堕ちた。こうしてヒットラーは一強ならぬ一党独裁を構築し、国民は「ハイル(救世主)ヒットラー」と彼に追従した。その行き着く先は言うまでもない。

足は血を流すのに早く 

 侵略戦争とマイノリテイ・ユダヤ人虐殺に狂奔するナチスに抗して、遅きに失したが、牧師・神学者のボンへッファーらはドイツ国防軍一部将校らと結託してヒットラー暗殺に立ち上がった(ワルキューレ作戦)が失敗。ドイツ降伏、ヒットラー自殺の20日ほど前に、彼らは処刑された。安倍一強の下、矢継ぎ早に歴史反動政策を打つ政府とナチとを同一視は出来ない。時代状況も違う。現日本は明治帝国憲法体制ではない。しかし国家権力の腐敗構造を反省も浄化もせず閣議決定を駆使して国会を追認機関のように扱い強進する政権は、「足は血を流すのに速く、その道には破壊と悲惨がある。彼らは平和の道を知らない」〈新約聖書ローマの信徒への手紙3:15~17)に等しい。国内外のどこから流血の事態を招くのか。先が見えるというものだ。

追記:この原稿を書き終えようとしているとき、東京都議選で自民の歴史的大敗(石破茂談)が明らかになった(2017・7・2)。自民を糺す都民の良心萎えず、と言えるか。安倍はしきりに党のゆるみを反省して政権奪還した初心に還りと言うが、何をゆるみと言い、何を反省するのか、この方は言わない。彼は先述の三つの武器を手にしたばかり。逆襲はこれからか。(常務理事 藤原史朗)