日本敗戦・朝鮮解放70年を迎えての共同声明 -関東大震災時の朝鮮人大虐殺の日に- - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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日本敗戦・朝鮮解放70年を迎えての共同声明 -関東大震災時の朝鮮人大虐殺の日に-

【投稿日】2015年9月1日(火)

 今から70年前の1945年8月15日、大日本帝国(当時)はアメリカを中心とした連合国軍による「ポツダム宣言」を受諾し、無条件降伏を受け入れました。1995年、村山首相(当時)が出した「村山談話」にもあるように、日本は「国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」ました。この戦争による死者は日本人(朝鮮人、台湾人含む)約310万人(軍人230万人、市民80万人)、日本占領地アジア諸地域では約2896万人にものぼりました。(数字は『日本は過去とどう向き合ってきたか』山田朗著、高文研より)

 一方、日本の植民地支配下にあった朝鮮は解放(光復)され、今年で70年を迎えます。当時、日本には「仕事を求めてやってきた人々」から「強制的に連れてこられた人々」まで、さまざまな要因により終戦時には約210万人もの朝鮮半島出身が居住していました。解放を迎え、約150万人が帰国しましたが、すでに日本に定着していて故郷の生活基盤が失われている、帰国の願望を持ちながらも、財産の持ち出し制限や朝鮮半島の社会的混乱から一時的に帰国を見合わせていた、そうこうしているうちに朝鮮戦争が勃発して海上交通がストップし、そのまま居残ってしまったなどの事情で約60万人が日本での定住を余儀なくされました。また、一旦、故郷に帰ったものの、済州道4・3事件や朝鮮戦争など朝鮮半島情勢の混乱の中で、日本に戻ってくる人も多くいました。

 祖国が解放されたにもかかわらず、さまざまな要因によって日本在留を余儀なくされた在日コリアン1世たち。

 戦前は「日本人」として、朝鮮の文化や言葉そして名前を奪われ、日本の戦争に加担させられました。1923年9月1日に発生した関東大震災時には軍や警察の流言によって多くの朝鮮人が虐殺されました。戦争が激化すると軍人・軍属として戦場に駆りだされ、鉱山や炭鉱など苛酷な労働現場で強制的に働かされ、「慰安婦」として女性の尊厳を踏みにじられました。そして沖縄での地上戦、日本各地での空襲、ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下によって、朝鮮人を含む多くの命が失われました。

 戦後は「外国人」として、さまざまな社会保障制度から排除されました。戦前の植民地支配から続く民族差別と排外主義の下、取り戻せたはずの文化、言葉、そして名前すら隠さざるを得ない状況におかれ、それでも家族のため、生活を維持するために必死で働いてきました。

 民族差別と闘う市民運動や国際的な人権尊重の潮流により、制度的な民族差別はずいぶんと解消されてきました。ヨンさまがもたらした「韓流ブーム」は日本と韓国との文化交流を一気に押し進め、両国和解の礎になるかと思われました。

 しかし、「韓流ブーム」の一方で「嫌韓」を煽る出版物が出回り、それは精算されずにあった日本社会の植民地支配意識に火をつけ「ヘイトデモ/ヘイトスピーチ」として、街頭で堂々と差別発言が行われる事態となってしまいました。そのデモでは「悪い韓国人も良い韓国人も殺せ」「韓国帰れ」「鶴橋大虐殺するぞ」と憎悪と敵意をむき出しにした発言がいまなお繰り返し行われています。そして彼/彼女らがもっとも憎悪感情を向けている相手が在日コリアン1世たちです。「外国人なのに生活保護をもらっている」「日本の恩恵を受けているのに、さらに参政権や年金を求めている。反日的だ」「密航者で犯罪者だ」「戦後の混乱期に不条理な行いをした」から許せないなどと主張しています。

 このような事態になってしまった背景の1つに、歴史認識の問題があります。一部の政治家や研究者、マスメディアは、日本の植民地支配や侵略戦争などの負の歴史をあつかうことを「自虐的」「反日的」であるとして、そうした「日本人の誇りを傷つける」ようなことをあえて「無かったこと」「良いことであったこと」にしようとする「歴史修正主義」の動きが昨今、盛んになっています。安倍首相は戦後70年の首相談話を8月14日に発表しましたが、河野談話や村山談話など、歴代政権の過去の歴史に関連した談話を否定しない意向を明らかにしたものの、自ら公式に謝罪することなく、歴代政府の活動に言及することで、謝罪と反省を間接的に言及するのにとどまりました。そして、日本の朝鮮植民地支配については、直接的な謝罪と反省はありませんでした。
 さらに、戦後生まれの世代(戦争非体験世代)に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない、と言及しました。しかし、人間は先人の多くの文化的・経済的恩恵の上に生きていますが、逆に先人が精算していない負の遺産があるのならば、その精算に参加する義務があるはずです。現実に戦後補償にかかわるあらゆる問題がきちんと精算されていない中で、戦争非体験世代がその精算の追求に積極的に参加することを通じて、その責任の所在をみずから確認し、責任を負うという責務を果たすことで謝罪を続ける宿命から一歩進むことができるのです。しかし安倍首相にはこのような認識はまったくないことがわかります。

 「ヘイトデモ」を行っている者にとっては、このような「歴史修正主義」の下、それに異を唱える者は「反日」であり、朝鮮の植民地支配などはなく、逆に日本は朝鮮を救ったのであり、その恩恵の下にある在日コリアンが、戦後の混乱期に不条理な行いをし、参政権や年金などの権利を主張したりすることは、とんでもない、そんな恩知らずの在日コリアンはさっさと日本を出て行け、殺すぞ、と叫んでいるわけです。
 また、歴史認識の問題と連動して、今、参議院では集団的自衛権を含む「平和安全法制整備法案」の審議が行われています。これらの法案は、アメリカなど他国が海外で行う軍事行動に、日本の自衛隊が協力し加担していくものであり、憲法9条に違反しているとして、憲法学者をはじめ、学生たちも反対運動を行い、世論調査でも反対が上回っている状況です。法案は、①日本が攻撃を受けていなくても同盟国が攻撃を受けて、政府が「存立危機事態」と判断すれば武力行使を可能にする②米軍等が行う戦争に、世界のどこへでも日本の自衛隊が出て行き、戦闘現場近くで「協力支援活動」をする③米軍等の「武器等防護」という理由で、平時から同盟軍として自衛隊が活動し、任務遂行のための武器使用を認めるものです。日本が「戦争のできる国」になるための法案であることは明白です。

 70年前に何千万人もの犠牲者を生み出したことへの反省があったからこそ、今の日本があったはずです。しかし、それがないがしろにされようとしています。二度と再び、若者を戦地に送り、殺し殺されるような状況をつくってはいけないのです。

 そして、日本の朝鮮植民地支配とアジア・太平洋戦争の結果として生まれた在日コリアンのような存在を、再びつくってはいけないのです。

 私たちは、日本の朝鮮植民地支配という歴史的背景を経て、日本での生活を余儀なくされたにもかかわらず、民族差別と偏見により多大なる苦労を強いられ、今なお、制度的差別やヘイトスピーチにさらされている在日コリアンおよび在日コリアン高齢者を支援する立場から、以下の提言をします。

1.戦後補償に関わるあらゆる問題(日本軍「慰安婦」、炭鉱・工場への強制徴用・強制労働者、戦死者、女子挺身隊、傷痍軍人・軍属、元BC級戦犯、サハリン在留韓
  人、在外被爆者など)や関東大震災時の朝鮮人大虐殺事件などの当事者個人への救済や慰霊、真相究明を日本政府は行うべきです。

2.日本の朝鮮植民地支配の結果、日本への定住を余儀なくされたにもかかわらず、民族差別と偏見によって多大な苦労を強いられてきた在日コリアンに対して、その 
  人権を保障するための特別な施策を日本政府は行うべきです。特に、在日コリアン高齢者に対しては、日本で安らかに暮せるための支援などを行うべきです。

3.民主党、社民党、無所属の糸数慶子議員が共同で参議院に提出した「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案」が、現在、参院法務委  
  員会で審議されていますが、早急に可決されるべきです。

4.安倍首相は戦後70年談話で言及しなかった朝鮮植民地支配に対する直接的な謝罪と反省をするとともに、主体的に河野談話、村山談話を引き継ぐべきです。

5.「平和安全法制整備法案」が成立すれば、集団的自衛権などの行使が現行憲法との間に齟齬を生みだし、実態に合わせるための憲法改悪が行われるのは目に見えて 
  います。自民党の憲法改正草案では、第9条の戦争及び武力による威嚇・行使について「永久にこれを放棄する」の文言を削除し、また第2項において「前項の規
  定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と定め、「国防軍」としての軍事力の保持を明確にしています。しかし、日本による過去の侵略戦争、植民地支配とい
  う記憶の残る在日コリアンや東アジアの人々にとっては、日本がこれまで憲法9条の武力の放棄という原則を、保持し続けているからこそ、戦後補償や歴史認識の
  問題があっても直接的な脅威とはならず、外交的な解決方法を見いだしてきました。しかし、9条の改悪によって、国防軍の保持を明示的に宣言し、日本が軍備を
  増強すると、そのことが東アジアにおける日本の信頼を崩壊させ、パワーゲームのインフレを生じさせる危険性が生じます。違憲性があり、東アジアにおける信頼
  を崩壊させ、再び若者を戦地に送り、殺し殺される状況をつくり、9条を改悪するきっかけとなり、かつ、侵略の結果生み出された在日コリアンのような存在をつ
  くるきっかけとなりかねない、「平和安全法制整備法案」は廃案すべきです。

                                                                      以 上
  

                                               2015年9月1日

                                               一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター
                                                                理事長 仲尾 宏
                                              特定非営利活動法人在日コリアン高齢者支援センターサンボラム
                                                                理事長 高 敬一