外国人をスケープゴートにした  差別・排外主義発言にたいして抗議します - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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外国人をスケープゴートにした 差別・排外主義発言にたいして抗議します

【投稿日】2025年4月22日(火)

 昔から政治家や有識者による、いわゆる【妄言】は日韓、日朝関係に政治的や歴史的な摩擦が起こる度に行われてきたが、最近は、日本社会がかかえるさまざまな矛盾や制度的欠陥、例えば、生活保護制度や社会保険制度などの問題点を指摘する際に、外国人をフェイク情報を基にスケープゴートにするケースが主流となっている。

 某出版社が配信したネット記事『日本の介護保険がおいし過ぎる!「外国人“タダ乗り”」がとうとう介護保険サービスにも…いま増えている外国人利用者「日本語が全く話せない人も」』では、これまで納税や保険料の支払いが十分でない外国人が少ない滞在期間で高額な介護保険サービスを受けられてしまうとし、保育制度にも同様の問題があるとして、外国人に「付け入るスキを与える」としている。つまり現行の介護保険制度は外国人が「タダ乗り」できてしまうほど重大な欠陥があると、このライターは言いたいわけだが、中身を検証すると、このライターはほんとうに介護保険制度を理解しているのかと、疑いたくなる。ようは、外国人がありもしないのに「タダ乗り」しているかのようなストーリーをつくりあげるために、さまざまなデーターや調査結果、有識者の見解などを都合良く用いて、記事を作成しているとしか思えない内容である。これは意図していようがいまいが、外国人をスケープゴートにして排外主義を煽る差別行為であるといわざるをえない。某出版社は、この問題を指摘した移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)にたいして、その問題性を認め、謝罪し、当該記事を削除した。回答に物足りない部分はあるが、某出版社が真摯に対応されたのがまだ救いである。

 一方、国民民主党の玉木雄一郎代表が、自身のX(旧ツイッター)で「今朝のウェークアップでも指摘しましたが、外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです」「現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきです」と主張した。この投稿は、玉木代表が2月15日の日本テレビ系『ウェークアップ』(土曜午前8時)に出演したときの発言が基になっている。

 この問題を指摘した移住連は玉木代表発言の問題点として、①「90日間日本にいれば、高額療養費制度が使えてしまう」のではなく、日本に住む以上、病気になる、ならない、に関わらず、外国人にも保険料を納付する義務を課しているのが日本の医療保険制度であること。②外国人の高額療養費制度利用が保険財政を圧迫している、という事実やデータは、まったくといっていいほど存在していない。そもそも、入国して90日程度の間に高額な医療費を有する病気となる外国人が、一体どれだけいるのか。③高額療養費の問題を、外国人に対する誤った認識にすりかえ、「現役世代」である外国人も払っている社会保険料は、日本人のために使え、という驚くべき発想。これを排外主義、そして差別と言わずして何と言ったらよいのだろうか。と指弾した。

 玉木代表の不勉強さはさることながら、この発言は明らかに外国人にたいする排外主義を煽る差別発言である。先述のライターと同じく、高額療養費制度の問題点を、外国人をフェイク情報を基にスケープゴートにして指摘したいわけだ。悪質なのは、意図的に、誤った情報を垂れ流し、外国人が「タダ乗り」して日本の医療制度を崩壊させているというデマを拡散させ、興味関心を引こうとしていることだ。この行為は、人種差別撤廃条約や日本のヘイトスピーチ解消法でも規定されている差別扇動である。さらに、社会保険料を日本人のために使えとは、あきれて物が言えない。この問題を日本のマスコミがほとんど問題視していないことも、一種の恐怖を感じる。昨今、飛ぶ鳥落とす勢いの玉木代表を批判できないということか。いやマスコミ自身にも外国人に対する人権意識が希薄になっているのだ。情けない話しだ。

 さらに、自民党の山田賢司氏の発言も酷い。山田議員は3月3日の衆院予算委員会で、自民、公明両党が日本維新の会と合意した高校授業料無償化について、外国人を対象としないよう求めた。現行制度では国内の外国人学校やインターナショナルスクールに通う外国人も要件を満たせば公費による支援が得られるが、山田氏は無償化の対象となれば「到底、納税者の理解が得られない」と強調。前提として「よく『無償化』という言葉を使うが、正しくは『税負担化』というべきだと思っている。従来、保護者が払っていた授業料を納税者の負担に切り替えていくだけのことだと考えている」と指摘。仮に4千億円かかるとすれば国民一人当たり4千円の新たな負担だとして、「増税しないまでも、お金が余っているんだったら税金を下げてよ、という考えの人もいる」と述べ、納税者の理解を得られる制度にすべきだとの認識を示し、「是非、日本人の子供たちのより良い教育のためにお金を使っていただきたい」と述べたという。指摘するまでもないだろうが、外国人も納税者である。山田議員は納税していない外国人を無償化の対象とするのはおかしいと、主張してるわけだが、それは、あたかもすべての外国人が納税していないかのような印象操作して、この制度に注文をつけているわけだ。これも外国人をフェイク情報を基にスケープゴートにするやり口だ。とんでもない差別扇動である。

 他にも、外国人をスケープゴートにし、生活保護制度や治安体制などを問題視する発言や文書を多く目にする。しかしどれも誤ったデーターに基づくもので、ファクトチェックされれば、すぐにその嘘がばれるものばかりだ。それでも世論はそれらの発言に反応し、影響されるのである。

 私たちは、今一度、100年前の関東大震災時における朝鮮人・中国人大虐殺に思いを馳せるべきだ。二度とあのような凄惨な事件をくり返さないためにも、政治家や有識者などの無知、ややもすれば悪意に基づく、外国人をスケープゴートに利用した言説はやめさせなければならない。そのためにも、私たちもこれらの言説に対して、厳しく抗議していかなければならない。(高)