“日本人ファースト”今に始まったわけではないが・・・強く“NO”と抗っていこう - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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“日本人ファースト”今に始まったわけではないが・・・強く“NO”と抗っていこう

【投稿日】2025年9月3日(水)

 私が参加できない参議院選挙は当初の予想をはるかに上回りおぞましい結果となった。KMJ会員の皆さまもおそらく同じ思いだろう。
 “日本人ファースト”をスローガンに掲げた参政党が改選1議席から14議席まで伸ばした。比例では約743万票を獲得、全体の12.5%で野党第一党の立憲民主党と並んだ。また、社会保障制度などの問題点を外国人をスケープゴートにして批判する玉木氏率いる国民民主党も改選4議席から17議席まで伸し、比例では約762万票を獲得、全体の12.9%で、野党で最も多く票を獲得した。さらに極右を標榜する百田氏率いる日本保守党も2議席を獲得、比例は約298万票と全体の5%をしめた。他、議席は得られなかったが、日本保守党同様極右を標榜するNHK党が1.2%、日本誠真会が0.6%を獲得した。そして、外国人の人権政策に後ろ向きな政党として自民が21.6%、維新が7.4%だった。これらすべてをあわせると、61.2%となる。これに連立与党の公明の8.8%を合わせると、実に70%となる。短絡的ではあるが、有権者(投票者)の実に7割が在日外国人に“NO”を突き付けた、と私は捉えている。

 さてなぜ7割もの有権者が在日外国人に“NO”を突き付け、そして“日本人ファースト”を支持したのだろう。同じような現象が数十年前に起きている。2000年代の後半から「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などが、在日コリアンが集住する東京の新大久保や大阪の生野を中心に、猛烈なヘイトデモを行った。その時のスローガンが在日コリアンには“在日特権”があり、日本人よりも優遇されている、それを許さない、というものであった。当時、在特会は一定の支持を集め、ヘイトデモには多くの賛同者が参加した。その後、在特会を主導した桜井氏は日本第一党を結成し、地方などではある程度の議席を得たが、今回のような参政党や日本保守党ほどの支持を得ることはなかった。

 どの点に違いがあったのだろう。“在日特権”はすべてデマであることがある程度浸透していることや、何よりも在特会の運動は、「殺せ」や「出て行け」などの露骨な差別・排外主義のもとで展開されたことにあったと考える。それは大きなカウンターを生み、ヘイトスピーチ解消法が成立し、露骨なヘイトデモは一定抑えられた。そして「殺せ」や「出て行け」は心情的に一般には受け入れがたかったのだろう。

 一方、“日本人ファースト”は日本人にとっては、当たり前で、ソフトで、耳心地がよかった。“在日特権を許さない”は他者を露骨に攻撃しているが、“日本人ファースト”にはそのような印象をもたれにくい。あわせて、日本社会の閉塞感がある。バブル崩壊以降の「失われた30年」で、多くの日本人は経済的停滞と将来への不安を抱えてきた。物価高が続く中、給料は上がらず、老後の不安を抱える人は82%にも達している。経済格差も拡がるばかりで、努力しても報われないといった観念に落ち込んでいるものも多い。こうした状況下で、「外国人のせいで日本人が割を食っている」という単純な図式は、不満のはけ口として機能しやすい。「日本で日本人を優先して何が悪いんだ」ということである。ここに在特会ではなく、参政党などが大衆の支持を大きく受けた違いがあったように思う。

 しかし、KMJ会員の皆さまも認識されているとおり、“在日特権を許さない”も“日本人ファースト”も根は同じである。参政党などの選挙運動も、社会保険や生活保護などで「外国人が優遇されている」というデマをもとに展開された。“在日特権”が“外国人特権”に代わっただけである。そして公職選挙法によって保障された“表現(差別)の自由”(あえてこう書く)をたてに、ヘイトスピーチを連発した。神谷代表の「チョン」発言、支持者による「十円五十銭と言ってみろ」などあげればきりがない。そして在特会の時と同じように日本の閉塞した社会状況がこれを後押しした。

 つまり“日本人ファースト”は“在日特権を許さない”を耳触りの良い、大衆受けする表現に変えただけであり、その根底には日本の閉塞した社会状況の下、日本社会に構造的に組み込まれている「外国人嫌い」「差別・排外主義」が、形を変えて表出しただけである。

 そしてもっともおぞましいのは、その主張が少なくとも有権者の30%近くの支持を受け、それを補完する勢力もあわせて70%が支持・共感したのが今回の参院選であった。朝日新聞の世論調査では“日本人ファースト”を48%が評価したという結果がでている。

 それでも多くのNGO団体や市民がこの風潮に対抗した。あまりにも気持ちが暗くなるのでハフポストで掲載されたカウンターをされた方々のコメントを紹介したい。

「わたしは差別に抗う。日本人ファーストは差別の煽動です」「選挙権がない外国人を差別のターゲットにして、日本人有権者の票を集めるというのは、非常に危険な行為」「プラカード1枚掲げたからといって何かが変わるわけではないですが、演説があったこの駅前は外国人も通ります。その時に、オレンジ(参政党のイメージカラー)一色ではなく、そうではない別の意見もあるということを示したかった。日本人ファーストという言葉で外国人を排除した先にあるのは、ホロコースト。いずれは様々な理由で、自分たちも標的にされる恐れがある」希望を持ちたい。

 だが・・・選挙後、参政党の神谷代表は、“日本人ファースト”は選挙のスローガンであり、外国人を排除する意図はない、それは差別につながるとコメントしている。「チョン」発言時にもすぐに訂正・謝罪した。そう、彼の臨機応変に空気を読む対応を逆に私は恐ろしく感じている。

 今回、一世を風靡した“日本人ファースト”。しかしご承知の通り、それは今に始まったことではない。日本が朝鮮を植民地支配してから、現在にいたるまで、常に“日本人ファースト”をもとに差別・排外主義政策がとられてきたのである。そしてこれを克服するための歴史認識の総括や在日コリアンへの戦後補償、『外国人人権基本法』や『差別禁止法』の制定そして『参政権の付与』をいまだにしないことが差別・排外主義を強化する根本的な原因なのである。

 “日本人ファースト”によって、出入国管理の規制強化などまた新たな差別が生み出されようとしている。“日本人ファースト”にたいして強力に“NO”と抗っていきたいと決意を新たにする。(高敬一 2025.8.4)