構造的差別を問う 金さんイルム裁判控訴審判決をうけて - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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構造的差別を問う 金さんイルム裁判控訴審判決をうけて

【投稿日】2013年12月17日(火)

  KMJも支援する金稔万さんの本名損害賠償裁判の控訴審判決が11月26日大阪高裁で行われた。林圭介裁判長は「不要な通名使用を金さんに強いた」として1審で全面棄却した事実関係を認めたが、それが違法行為には当たらないとして、原告の訴えを棄却した。判決では「通名は個人を特定する機能があると社会一般に認識されている。在日韓国人が本名の呼称を求めていると認識しながら、害意をもって通名を使うなどの特段の事情がない限り、違法性はない」と指摘。「業者は害を与えようと意図して通名使用を求めたのではなく、金さんを速やかに就業させようとする目的だった。社会通念上、著しく相当性を欠き、許容できないとはいえない」と判断、国の責任も否定した。

 事実関係が認められたことは大きな前進であった。通名の「強要」はあったのである。であるならば、裁判所がいう「害意」があったのかどうかは問題ではない。日雇い労働者という社会的弱者の立場にある金さんが、業者から「指示」されれば、意に反しても受け入れざるを得ない現実がある。それは言うまでもなく、生活のためである。多くの在日がそうやって生きてきているのだ。だが、誰がそれを強いているのか?通名を名のる在日自身が悪いのか?違う。差別を温存する日本社会の責任なのだ。だから「害意」の有無は関係ない。原告が訴えたかったのはまさにこの点である。裁判所は通名の「強要」を認めたならば、金さんに対する名誉毀損を認定し、当該企業を糾弾し、在日が差別なく本名を使用できる社会にすべく国に働きかけなければならなかった。しかし裁判所は金さんにたいして差別を「我慢せよ」と言い放ったのである。これが今の日本社会の現状である。

 同化政策を推進し、差別を放置してきた国。その土壌の上で、元請け会社の指示をそのまま受け止め、金さんに通名を強要していった下請けと孫請け会社。しかも末端の孫請け会社の社長は通名を使用する在日2世であった。この裁判はこのような日本社会の構造的差別を問い、打ち破るための闘いである。金さんや支援者のみなさん、そして私たちも落胆は大きいが、これからの子どもたちのためにも、決して譲ることはできない。負けられない闘いである。(K)