東京都知事選で排外主義者が11万票獲得 それ以上に危険なのは・・・ - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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東京都知事選で排外主義者が11万票獲得 それ以上に危険なのは・・・

【投稿日】2016年8月17日(水)

 7月31日、東京都知事選挙が投開票された。連日メディアでは小池百合子氏、増田寛也氏、鳥越俊太郎氏による三つどもえの選挙戦にスポットがあてられていたが、
私が非常に気になっていたのが、あの桜井誠(在日特権を許さない市民の会元会長)がどれほどの票を得るかだった。結果は11万4171票。東京都の有権者数が1108万3306人なので、約1%の都民が支持したことになる。(投票率は1.74%)。

 桜井は次の7つの公約を掲げて選挙戦に臨んだ。
①都内に在住する外国人の生活保護の支給を停止し、生活保護の受給者は日本国民に限定する。
②都内の不法残留者を4年間で半減させる。
③日本人に対し外国人が虚構の歴史に基づいて責め立てる反日ヘイトスピーチを禁止する。
④税の公平性に反し減免されている、総連・民団の中央本部および関連施設への課税強化を図る。
⑤違法賭博パチンコに対し規制を実施。
⑥韓国学校建設については中止。
⑦コンパクト五輪の意義を考え、現行の東京五輪案の改善を図る。

 排外主義むき出しの内容だが、彼はこれまでも一貫してこれらの主張を行ってきたので特段驚きはしない。むしろ、たとえ1%でも彼のこのような主張が支持され、彼が行ってきた数々のヘイトクライム(憎悪犯罪)も支持されたことを憂う。

 桜井が11万票を得たことについて、評論家の古谷経衡氏は「想定内の健闘」と分析する。古谷氏によると、桜井の基礎票は、彼と政治的主張の近い右派系市民団体「維新政党・新風」の鈴木信行氏の得票数を参考に、鈴木氏が2013年参院選東京選挙区から立候補した際、約7万7000票を集め、先月の参院選同選挙区でも約4万3000票を獲得しているので、桜井の基礎票は5万~8万はあるとする。今回の11万という得票数は、鈴木氏と同水準の基礎票にいくらか加味し、やや健闘したとはいえるが、それはあくまで想定の範囲内であり、特段驚くべき数字ではない、としている。

 さらに古谷氏は、2014年の都知事選における、事実上の非自民ネット保守による史上初めての統一候補とされる田母神俊雄氏と比較し、今回の選挙で桜井の潜在的支持者とも言える「ネット保守層」からの支持は2割にも満たなかったと分析する。田母神氏は前回の都知事選で約61万票を獲得した。今回の都知事選挙は、前回よりもはるかに高い投票率だったにもかかわらず桜井は田母神氏の6分の1程度(約18.7%)しか得票できず、「ネット保守層」からの支持の、その大部分を取り逃がした計算になった。その理由について、「ネット保守層」は、桜井の主張に一定程度共感はするものの、その過激な手法に嫌悪感を示すものが多いという。その点を考慮してか、今回、桜井の街宣スタイルからは、「朝鮮人を〇〇~」などという過激な物言いは鳴りを潜めた。それでも彼が主導した排外的なデモや、ヘイトスピーチが、結果的に「ネット保守層」が嫌悪する「ヘイトスピーチ解消法」の立法化につながったことから、この点において桜井を支持する「ネット保守層」が激減したようだ。

 では、前回の都知事選挙で田母神氏を支持した「ネット保守層」の多くは、誰に投票したのか。彼等が一貫して共通するのは「嫌韓」であり、支持・不支持の基軸は、党や政策ではなく、韓国に対する態度、その一点のみにあるという。今回当選した小池百合子氏は都有地韓国有償貸与問題(新宿区)を白紙にすると明言していた。増田氏は、自民党主流候補でありながらも、過去の言動から「融韓的」と見られ忌避される格好になった。また、増田氏と同じく「ネット保守層」から「融韓的」とみなされている石原伸晃氏から小池氏が徹底攻撃されたのも、逆に小池支持の起爆剤になったという。つまり、「ネット保守層」の8割近くが小池氏に票を投じたのである。その数は50万票ちかくあるとみる。

 古谷氏は今回の都知事選の結果から、桜井などの過激な排外主義は、かつての支持者であった「ネット保守層」離れにより縮小していくだろうと分析する。しかしほんとうにそうだろうか。桜井とその周辺の排外主義者たちは今回の11万票を梃子に、今後より過激化、先鋭化していくだろう。ある意味市民権を与えしまったのではないか。そして多くの「ネット保守層」が支持した小池氏もその言動から、前東京都知事・石原慎太郎を彷彿とさせる。すぐに自民党との関係を回復し、安倍政権とともに、改憲・ファシズム路線を展開するだろう。ほんとうの東京の、そして日本の危機はこれからである。(高敬一)