大阪地震における「ヘイトデマ」と新たな傾向 - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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大阪地震における「ヘイトデマ」と新たな傾向

【投稿日】2018年7月16日(月)

 6月18日(月)大阪府北部を中心に震度6弱の地震が発生した。多くの方が被災され、命を落とされた方もいた。被災されたすべての皆様にまずはお見舞い申しあげたい。私もちょうど出勤前で大渋滞に巻きこまれたが、家族、自宅、KMJ事務所、なによりもサンボラムの利用者様たちが怪我もなく無事であったことに胸をなで下ろした。

 さて、このような災害が発生するといつも気になるのがSNS上における「ヘイトデマ」である。2年前に発生した熊本地震や2011年の東日本大震災時にも〈朝鮮人が井戸に毒を入れた〉などの「ヘイトデマ」が拡散されたが、案の定、今回も次のような「ヘイトデマ」が垂れ流された。

〈在日4世の女学生が混乱に乗じて道行く爬虫類系の男性を睡眠薬入りアイスティーで昏睡させてさらってるらしいです!〉
〈大きい地震とか災害おこると在日が嬉々として犯罪に走るから気を付けなよ〉
〈外国人って地震に慣れていないから、真っ先にコンビニ強盗を始めるか、空港に殺到するようです〉
〈在日・中華人種の”窃盗・搾取・強盗”にはくれぐれもご用心をッ!!!〉
〈今後の在日朝鮮人・共産主義者による暴動、略奪、暴行に注意しよう〉
〈みんな気をつけろよ スリーパーセルが動き出す〉〈新幹線の次は地震。スリーパーセルの仕業だな〉

 言うまでもなくこれらのツイートは明確なデマであり、極めて悪質な偽情報である。調べてみて「やっぱりか」と思いながら、ただいつもとは違う状況にもあることにも気づいた。

 ひとつは、「スリーパーセル」という、これまで確認されていなかった用語が登場していることだ。これは今年2月、フジテレビの番組『ワイドナショー』での三浦瑠麗氏(東京大学大政策ビジョン研究センター講師)によるデマ発言が影響したものといわれる。番組で三浦氏は米朝開戦について①戦争が始まり金正恩氏が殺されても、スリーパーセルと言われるテロリストが活動をはじめる②ソウル、東京、大阪に多く潜伏していて、特に大阪は危ない、と根拠もないデマを語った。番組もデマであると指摘することなく、スリーパーセルの解説として「一般市民を装って潜伏している工作員やテロリスト」とのテロップを流していた。このようにヘイトを煽る番組や識者による影響が、今回の事態に大きく関与していることがわかる。

 もうひとつは、このような「ヘイトデマ」に対して批判したり、注意を喚起するような情報が多く発信されたことである。法務省人権擁護局はその日に「差別や偏見をあおる意図で虚偽の情報が投稿されている可能性」があるとして注意を呼びかけ、NHKでは「在日外国人などへの差別をあおるような投稿」や「デマ」への注意を喚起する報道を行った。肝心の大阪府は「事実とことなる情報が発信されている」とデマにたいする注意喚起はおこなったが、「ヘイトデマ」に特化してない部分は物足りなかった。とはいえ、ようやく行政機関やメディアも災害時における「ヘイトデマ」にたいする危機意識をもつようになってきたともいえる。

 そしてなにより、個人が「ヘイトデマ」にたいして批判し、運営会社に通報、削除しようと活発に動いたことだ。立教大の曺慶鎬氏によると、熊本震災時からこのような動きが目立つようになってきているそうだ。閉塞感漂う中で一縷の希望として紹介しておきたい。(高敬一)