出版社は“原点”に今一度立ち返ろう - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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出版社は“原点”に今一度立ち返ろう

【投稿日】2019年12月5日(木)

 「週刊ポスト」における民族差別記事問題で、KMJは発行元の小学館と話し合いを行い①誌面での謝罪と検証記事を掲載する②昨今の「嫌韓」報道を在日コリアンがどう受けとめているのかを記事にし掲載する③社内研修を実施する、の3点を要請。後日、小学館側からは①はすでにインターネットとポスト誌上で行ったので、改めてしないが、②③については実施するとの回答を得た。

 そして「週刊ポスト」2019年11月1日号において『必読レポート 嫌韓と「在日」 「戦後最悪の日韓関係」の狭間で生きる在日コリアンの「声なき声」を聞く』という記事が掲載された。満点とはいかないまでも、多方面に取材をし、さまざまな立場の在日の声を紹介した、近年稀に見る“よい”記事であったように思う。

 また、KMJは誌面上での謝罪や検証記事の掲載ができないのであれば、小学館としての今回の問題の総括を求め、法務部に対し、KMJ理事長宛に文書を要請した。その回答で、小学館として今問題は「民族差別であった」と認め、「深い反省」と社内の「啓発活動」にこれまで以上に力を入れ、「社員の人権意識の向上」、「再発防止に努める」との強い決意を示された。KMJとしては、不十分な点もあるが、おそらく社内で苦労された法務部担当者の努力に敬意を払い、今後の取り組みに期待する旨を伝えて、一端、今問題に終止符を打った。

 さて今問題は、長きにわたり、主要な出版社とともに民族差別表現問題に取り組み、交流・信頼関係を築いてきたKMJにとってはショッキングな事件であった。
 1970年代、それまでメディアに溢れていた民族差別語・表現にたいして、一石を投じたのが「日本朝鮮研究所」だった。日本朝鮮研究所は「広辞苑」(岩波書店)に掲載された「北鮮」「鮮人」表記、少年サンデー(小学館)に掲載された漫画「おとこ道」内での「第三国人」表記、それらを民族差別語であると問題提起した。日本ではじめて民族差別表現にかかわる糾弾闘争が行われたのである。ちょうど日立就職差別闘争が行われた時期と重なることからも、1970年代は民族差別撤廃運動の胎動期であった。

 以降、民族差別と闘う連絡協議会や全国在日朝鮮人教育研究協議会、KMJにそれらの運動は継承されていく。1980年代から90年代後半にかけては、もっとも苛烈に糾弾闘争が行われ、出版物の回収もざらであった。今回のポスト記事がこの時期に発刊されていたらおそらく回収騒動になっていたであろう。奈良を中心に活動する金井英樹氏は「80年代前半までの朝鮮記述は、まだまだ差別的な描き方に満ちていたので、読む本、読む本に、問題となる記述があって、随分と辟易させられたものだった」と当時を振り返っている。まさに「もぐらたたき」状態であった。

 1990年代後半になると、差別語自体を問題にした運動が出版社側に運動対策、自主規制を進める結果となり、根本的な解決につながらない、という運動体側の総括と、出版社側の在日コリアンの歴史や社会的背景などを担当者が理解していない、無関心という問題意識の下で、差別語が使用される背景への追及、そして学習・啓発、運動体側と出版社側の日常的な交流、研究を行っていくことを目的に、KMJが母体となって「民族差別と表現にかかわる研究会」を発足した。(研究会は研究者・運動体・出版社の3者で構成し、定期的に学習、交流を進めてきた。それは現在、KMJの「民族差別と啓発にかかわる研究部会」に発展解消している。)

 以降、完全になくなったわけではないが、主要出版社の発行物においては、最近までほとんど民族差別表現は見られなくなり、KMJとの交流も続けられている。(民族差別表現は、その後、アングラ化していき、ネット上で復活、ヘイトデモの中で再び表舞台にでてくるのだが。)故に主要出版社の一つであった小学館で今回のような記事が掲載されたことはショッキングなことであったのだ。

 嫌韓ムードの中で、多くのメディアがそれに迎合。中にはまるで芸能人のスキャンダルのごとく韓国のことを扱うメディアもある。昨今それを大衆が無批判に、おもしろおかしく受け入れるという異常な状況にある。出版不況の中、少しでも売れる出版物をつくるため、という意識の下、今回のような記事になったであろうことは容易に想像できる。合わせて担当者が在日コリアンの歴史や現状に対して、無知・無理解な状況になっていることも根本的な要因としてある。そういった意味では、どこの出版社でも同じようなことは起きうるのである。

 今回の事件を契機に、今一度、少なくともKMJと過去、現在と切磋琢磨してきた出版社の方々には、“原点”に立ち返り、社内啓発や出版物のチェックをしていただきたい。KMJ自身も“原点”に立ち返り、出版社の方々と協同していきたいと思う。そういった地道な行動が、昨今の閉塞的状況を打破することに繋がるのではないだろうか。(高敬一)