「韓国・朝鮮人生徒学生の嫌がらせ体験に関する意識調査」民族差別の実態を可視化 - 一般社団法人在日コリアン・マイノリティー人権研究センター

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「韓国・朝鮮人生徒学生の嫌がらせ体験に関する意識調査」民族差別の実態を可視化

【投稿日】2021年3月8日(月)

 120年の歴史を持つ「朝鮮奨学会」が2019年12月から2020年2月にかけて、「韓国・朝鮮人生徒学生の嫌がらせ体験に関する意識調査」を実施し、その報告書が公表された。調査対象は朝鮮奨学会の奨学生で、高校生・高専生620名、短大・大学・大学院生877名の計1484名にアンケートを配布し、有効回答が1030件、69.4%と高い回収率。

 調査の目的は、2016年にいわゆる「ヘイトスピーチ解消法」が成立して以降、民族的出自に基づく嫌がらせをどの程度受けているのかを明らかにし、被害実態を把握すること。このような調査は公的機関では行われていないので、大変貴重なものだ。昨今、ヘイトスピーチが公然と行われているにもかかわらず、「日本には民族差別・人種差別なんてない」といった「妄言」が平然と語られることが多くなった。大坂なおみ選手がアメリカのBLM運動と連帯して、抗議の意を示したときにも、スポーツ用品メーカー「NIKE」が差別の実態を告発するCMを流したときも、それらの共感と同じくらい、むしろそれよりも強い反発を生んだ。だからこそ「日本には差別はある」ということを実証的に示すためにも、この調査は重要な意義を持つといえるだろう。

 さて、誌面の関係上、調査結果のすべてを紹介することはできないが、何点かピックアップしてみたい。

 まず最初に驚いたのは、民族名使用率の高さである。日常生活で民族名使用が全体の47.7%、民族名の方が通名より多いが16.2%で合わせて6割以上が民族名を使用している。これは在日コリアン全体の実態とは随分かけ離れており、朝鮮奨学会の奨学生にたいする教育の成果と彼/彼女らの意識の高さの表れであろう。願わくば、実社会に出たときもそのまま民族名を使用してもらいたいものだ。

 さて、調査は「言葉による嫌がらせ」「嫌な思い(差別的処遇)」「ネットでの嫌な体験」「ヘイトデモ・街宣の見聞き」の4種類に分けられ、それぞれ、性別、教育課程(高校生か大学生か)、出生地(日本・韓国・その他)、名前の使用(民族名か通名か)によって分析されている。

 まず「嫌がらせの体験の種類と有無」について。「言葉」では30.9%、「差別的処遇」では39.4%、「ネット」では73.9%、「デモ街宣」では75.7%が「体験あり」と答えた。これだけでも十分民族差別の実態が可視化されていると言えるだろう。全体の3割から4割の学生が直接的な差別体験をしているという現実は大変重い。

 次に注目したいのは「性別」による違いである。「言葉」では、男性が12.7%にたいして女性は17.2%、「差別的処遇」についても、「学校」では男性が9.4%にたいして女性が16.4%、「アルバイト先」では男性が3.7%にたいして女性が8.3%と性別による違いが大きく表れた。これは民族差別とジェンダー差別が重なり合う、いわゆる複合差別の実態が可視化されていると言えるだろう。

 最後に「名前の使用」による違いを紹介したい。「言葉」では、「通名」が7.3%にたいして「使い分け」が15%、「民族名」が17.9%と「通名」だけに比べて圧倒的に高い。やはりいまだに「民族名」では生きづらい実態が浮かび上がった。

 今回、紹介できなかった調査結果も非常に示唆に富むものばかりである。朝鮮奨学会HPでダウンロードできるので、ご活用いただきたい。(KMJ事務局)